毎年8月、盛岡の中央通りが巨大な太鼓のステージに変わる。色とりどりの浴衣をまとった踊り手たちが一斉にバチを振り下ろすと、ビルの壁に跳ね返った太鼓の音が街全体を揺らす。これが「さんさ踊り」——岩手の夏を象徴する、日本最大級の太鼓パレード祭りだ。
隣県の青森ねぶたのような巨大な山車も、秋田竿燈のような高くそびえる提灯の柱もない。さんさ踊りの主役は、一人ひとりの踊り手と太鼓打ち。およそ1万〜2万人のパレード参加者が生み出すリズムの壁は、耳より先に胸で感じる。太鼓の同時演奏人数ではギネス世界記録にも認定されている。
日程と会場
さんさ踊りは毎年8月1日〜4日、盛岡市中心部の中央通り(県庁前〜開運橋付近、約1km)で開催される。パレードは18時頃に始まり、21時頃まで続く。沿道は無料の観覧エリアだが、前列を確保するなら17時までに到着したい。
有料の指定席(約2,500円)もあり、椅子付きで確実に観覧できる。毎晩パレードの後には「輪踊り」の時間があり、観光客も自由に参加できる。ボランティアがその場で基本のステップを教えてくれるので、初めてでも心配は要らない。
踊りの起源と伝説
昔、盛岡の「三ツ石」と呼ばれる岩山に鬼が住み着き、人々を苦しめていた。神様が鬼を退治すると、喜んだ人々が「さんさ、さんさ」と踊ったのが始まりと伝えられている。盛岡の旧名「不来方(こずかた)」——鬼が二度と来ない場所——もこの伝説に由来する。
現在の振り付けは、太鼓・笛・鉦に合わせたシンプルな手足の動き。町内会や企業、学校ごとにチームを組み、衣装やアレンジに工夫を凝らす。その多彩なバリエーションを見比べるのも楽しみのひとつだ。
盛岡へのアクセス
東北新幹線で東京駅から盛岡駅まで約2時間15分。仙台からなら約40分。盛岡駅からパレードルートまでは徒歩約15分またはバスですぐ。
他の東北祭りとのはしごも容易だ。弘前ねぷた(8月1〜7日)、青森ねぶた(8月2〜7日)と日程が重なるため、JR東北本線やバスを利用して1週間で3つの祭りを巡ることも可能。
盛岡三大麺
盛岡に来たら、「盛岡三大麺」は外せない。
わんこそば——給仕さんが次々とお椀にそばを投入し、蓋を閉じるまで止まらない。一人前は50〜100杯が目安(一杯はひと口サイズ)。駅近くの「東家本店」は1907年創業の老舗。
盛岡冷麺——弾力のある半透明の麺を冷たい牛骨スープでいただく。キムチ、ゆで卵、きゅうり、そして季節のフルーツ(夏はスイカ、秋は梨)がトッピング。1954年に平壌出身の料理人が韓国冷麺をアレンジして生まれた。「ぴょんぴょん舎」や「食道園」が定番。
じゃじゃ麺——平打ちうどん風の麺に肉味噌、にんにく、生姜、唐辛子を絡めて食べる。食べ終わったら、残った味噌に生卵を割り入れ、「ちーたんたん」(熱いスープ)を注いでもらい、締めのスープとして飲む。独特だが、一度味わうと忘れられない。
祭り以外の見どころ
盛岡城跡公園(岩手公園)は市の中心にそびえる石垣の丘。三本の川が合流する地点に位置し、夏は木陰の散歩が心地よい。遠くには岩手山——北の富士ともいわれる美しい休火山——が街を見守る。
岩手銀行赤レンガ館は1911年築の明治洋館で、東北有数の近代建築遺産。少し足を延ばせば、岩手山麓の「小岩井農場」(バスで約40分)では新鮮な乳製品と広大な牧草地が待っている。
クラフトビール好きなら「ベアレン醸造所」へ。国内屈指のブルワリーで、見学ツアーやタップルームを楽しめる。シュヴァルツビールとじゃじゃ麺の組み合わせは絶品。
宿泊
さんさ踊り期間中のホテルは早い者勝ち。盛岡駅周辺のドーミーイン、ホテルメトロポリタン盛岡、リッチモンドホテルなどが便利。最低でも1ヶ月前の予約を推奨。予算を抑えたい場合は、電車で約30分の雫石や繋温泉の旅館に泊まり、温泉でリフレッシュする手もある。
実用情報
- 盛岡の夏の夜は東京や大阪より涼しく、日没後は25〜28℃程度。薄手の羽織りがあると快適。
- 観覧は無料。折りたたみ椅子やレジャーシートがあると便利。
- パレードルート沿いの屋台で焼き鳥、かき氷、地元クラフトビールが楽しめる。
- 前列からなら太鼓の振動が体に伝わるほどの距離。写真撮影にも最適。
- 輪踊りに参加するなら20時半頃、開運橋寄りのボランティアガイドの近くへ。
さんさ踊りは、祭りに惹かれて来て、街そのものに心をつかまれる——そんな体験だ。太鼓の余韻が消えた後も、麺の味、川沿いの散歩、東北の涼しい風がいつまでも記憶に残る。なぜもっと早く来なかったのだろう、と思わずにはいられない。
Image: 盛岡さんさ踊り, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons