本州の最西端に位置する山口県は、初めての日本旅行のルートに入ることが少ない。京都や東京に旅行者が集中する中、山口には日本三名橋のひとつ錦帯橋、国内最大級の鐘乳洞・秋芳洞、幕末の志士を多く輩出した城下町・萩、そして国宝の五重塔が静かに佇む。9月は旅のベストシーズンだ。夏の猛暑が和らぎ、山々に秋の気配が忍び寄り、地元の祭りが旅人を迎える。
岩国・錦帯橋:錦川に架かる五連の木造アーチ
錦帯橋は1673年に創建された五連の木造アーチ橋で、釘を一本も使わずに精密な木組みだけで支えられている。背後には緑の山々、山頂には岩国城がそびえ、橋・川・城が一体となった景観は何世紀にもわたって画家や旅人を魅了してきた。
9月になると真夏の暑さが引き、橋周辺は散策に最適な季節を迎える。9月中旬からはもみじ舟(秋の遊覧船)が運航を開始し、木造の舟に揺られながら橋の下をくぐり、色づき始めた木々を水面から見上げることができる。岩国城へのロープウェイからは、錦帯橋と蛇行する錦川のパノラマが広がる。
昼食には岩国寿司を。木箱に何層にも重ねた押し寿司は、この城下町ならではの郷土料理だ。武家屋敷が残る目加田地区の散策も忘れずに。
秋吉台・秋芳洞:カルスト台地の地下に広がる別世界
海岸線から内陸へ約1時間、秋吉台は日本最大のカルスト台地だ。うねる草原から石灰岩の尖塔が突き出す風景は、日本のどこにも似ていない。初秋には草が緑から金色に変わり、灰白色の岩とのコントラストがいっそう幻想的になる。
台地の地下に広がる秋芳洞は、全長約1kmの遊歩道が整備された日本最大の鐘乳洞。百枚皿と呼ばれる石灰華段丘は、何百万年もの歳月をかけて形成された自然の芸術品だ。洞内は年間を通じて約17度に保たれ、残暑の9月にはひんやりと快適な空間になる。
9月上旬には秋吉台観光まつり花火大会が開催される。広大なカルスト台地に響き渡る花火は、都会の花火大会とはまったく異なる趣がある。地元の屋台や郷土芸能とともに、山口の夜を楽しめる。
萩:近代日本を動かした城下町
山口県北岸の萩は、幕末・維新期に多くの指導者を輩出した町だ。吉田松陰、高杉晋作、伊藤博文——日本の近代化を推し進めた人々がこの小さな城下町から巣立った。白壁と土塀の続く武家屋敷群は世界遺産に登録されており、細い路地を歩くと江戸時代の浮世絵に迷い込んだような気分になる。
萩は日本有数の陶芸の町でもある。萩焼の茶碗は萩の七化けと呼ばれ、使い込むほどに貫入から茶渋が染み込み、味わいが増していく。9月には窯元の特別展や陶芸体験イベントが開かれることもあるので、事前に確認しておきたい。
海沿いをサイクリングして萩灯台まで足を延ばしたり、松下村塾跡のある松陰神社を参拝したり。朝市では新鮮なイカやウニを手頃な価格で味わえる。
瑠璃光寺と山口市:西の京都
かつて西の京都と呼ばれた山口市は、大内氏が京をモデルに築いた城下町だ。1552年にはフランシスコ・ザビエルがここに日本初のキリスト教会を建てた。最大の見どころは1442年建立の瑠璃光寺五重塔。国宝に指定されたこの塔は、池のほとりにたたずみ、周囲の楓に囲まれた姿が美しい。9月はまだ紅葉前だが、緑から色づき始める微妙なグラデーションがかえって写真映えする。そして何より、京都の同等スポットとは比較にならないほど人が少ない。
下関・関門海峡:本州と九州の境界
山口県南西端の下関は、壇ノ浦の戦い(1185年)の舞台。現在はふぐ(地元では縁起を担いで「ふく」と呼ぶ)の本場として知られる。唐戸市場の週末の活きいき馬関街では、新鮮な寿司を競り気分で味わえる。関門トンネルを歩けば、約15分で本州から九州へ渡れるユニークな体験もできる。
アクセスとモデルコース
山陽新幹線の新山口駅・新岩国駅が最寄りで、広島からは約30分、博多からは約35分。岩国錦帯橋空港には東京羽田からの直行便もある。
おすすめ3日間:
- 1日目:新岩国着、錦帯橋と岩国城、夕方の河畔散歩
- 2日目:午前に秋吉台・秋芳洞、午後に萩へ移動して城下町と窯元巡り
- 3日目:萩の朝市、南下して山口市の瑠璃光寺、余裕があれば下関でふぐの夕食
9月の旅のヒント
- 気温は上旬20〜28度、下旬18〜25度。歩きやすいが、洞窟と夜の遊覧船には薄手の上着を。
- 秋吉台・萩方面はレンタカーが便利。JRバスでも主要スポットは巡れる。
- 平日の錦帯橋は早朝なら独り占めできることも。
- 萩焼の陶芸体験は要予約。自分で成形・釉薬がけした茶碗を焼成後に発送してもらえる工房もある。
日本の西の果てに、まだ知られていない風景と歴史と味がある。山口は、定番ルートの先にある日本を求める旅人にこそ訪れてほしい場所だ。
Image: 錦帯橋、岩国, CC BY-SA 4.0, Jakub Halun撮影, Wikimedia Commons