池袋から西武池袋線でわずか30分。東所沢駅から歩いて10分ほどの場所に、巨大な岩の塊のような建物が芝生の上に鎮座している。隈研吾が設計した角川武蔵野ミュージアム——ところざわサクラタウンの中核施設であり、2020年の開業以来、東京近郊でもっともユニークなカルチャースポットのひとつとして静かに存在感を高めてきた場所だ。
建物の外壁には約2万枚の花崗岩が不規則な角度で貼り付けられている。光の加減によって古代の岩山にも、未来の要塞にも、あるいはジブリ映画に出てくる建造物にも見える。図書館であり、美術館であり、博物館であり、イベント空間でもある——このミュージアムはひとつのジャンルに収まることを拒否している。
本棚劇場:3万冊が光のショーになる瞬間
施設内でもっとも話題を集めるのが、4階の本棚劇場だ。高さ約8メートルの書架に約3万冊の本がぎっしりと並び、天井まで壁一面を埋め尽くしている。一定時間ごとにプロジェクションマッピングが始まり、書架全体が色彩と映像に包まれる。本は本物、棚も本物。しかしその数分間だけ、部屋は生きた物語の内側のように感じられる。
書架の本は文学、アート、哲学、科学、サブカルチャーと幅広いジャンルにわたり、キュレーターが選書している。手に取って読むことも自由だ。
荒俣ワンダーカマー:驚異の部屋
上層階にある荒俣ワンダーカマーは、作家・博物学者の荒俣宏の名を冠した展示空間だ。剥製、鉱物標本、アンティークの科学器具、世界各地の珍品がガラスケースに並び、ルネサンス時代の「驚異の部屋」を現代に再現している。本棚劇場がフォトジェニックな壮大さだとすれば、こちらは奇妙で素敵な対極——1時間かけても見切れない細部がある。
マンガ・ラノベ図書館
ミュージアム本館の向かいに位置するマンガ・ラノベ図書館には、約3万5千冊のマンガ、ライトノベル、関連出版物が収蔵されている。入場料は数百円で、時間制限なし。棚は出版社やジャンルごとに整理され、快適な読書スペースが点在する。京都国際マンガミュージアムのような蔵書数ではないが、ライトノベルやアニメ関連タイトルの充実度では国内随一と言っていい。
2026年夏:電脳秘宝館・マイコン展
今年7月、サクラタウンでは日本のパーソナルコンピュータ黎明期を振り返る特別展が開催される。Sharp MZ-80、NEC PC-8801、富士通FM-7、そして伝説のMSXシリーズなど、1980年代を彩った「マイコン」たちが一堂に会する。実機デモや当時のエフェメラも展示予定。ファミコン以前の日本ゲーム産業のルーツに触れる貴重な機会だ。
武蔵野令和神社
ミュージアムとホテルの間に、サクラタウン開業と同時に創建された武蔵野令和の杜神社がある。ダークウッドとクリーンなラインの現代建築で、複合施設全体の美学に調和している。アニメ柄の絵馬が人気で、夏の夕暮れ時には参道に提灯が並ぶ。ミュージアム巡りの合間に、不思議と心が落ち着くスポットだ。
西武園ゆうえんち:昭和の日本にタイムスリップ
サクラタウンからバスで数分、あるいは電車で一駅の場所にある西武園ゆうえんちは、2021年に大幅リニューアルされた。パーク全体が1960年代の商店街をテーマにしており、時代衣装を着たキャストが園内通貨で営業する店舗で焼きそばやわたあめ、ラムネを売っている。テーマパークであると同時に没入型シアターでもあり、時代考証の精緻さには驚かされる。謎解きイベントや季節限定のパフォーマンスも随時開催されている。
午前中にサクラタウン、午後に西武園ゆうえんちという組み合わせは、趣味の異なるグループや家族連れに最適だ。
アクセス
池袋から西武池袋線で所沢駅まで急行約25分、西武新宿線に乗り換えて東所沢駅まで1駅。東口から徒歩約10分。所沢駅からの直通バスもある。新宿からは西武新宿線で東所沢駅まで約50分。
7月に訪れるためのヒント
夏の埼玉は東京都心より暑くなることが多い。ミュージアムと図書館は完全空調なので、午後の猛暑時は室内で過ごすのが正解。神社や芝生、西武園への移動は午前か夕方に。ミュージアムショップでは角川限定グッズやアートブック、アニメグッズを販売。EJアニメホテルではテーマルーム宿泊も可能だ。
土日は混雑するため、平日がおすすめ。土曜日に訪れるなら、開館時間の10:00に合わせて到着し、混む前に本棚劇場を楽しもう。
Image: 角川武蔵野ミュージアム(夕暮れ時), CC BY 4.0, Fotointheworld, via Wikimedia Commons