日本にこれほど圧倒的な祭りは他にない。多くの祭りが神輿や太鼓を中心とするのに対し、相馬野馬追は、戦国時代の甲冑をまとった400騎以上の武者が全速力で馬を駆り、旗印をなびかせながら原野を疾走するという、圧倒的なスケールの祭りだ。これは再現イベントでも演劇でもない。1,000年以上途絶えることなく続く「生きた伝統」であり、毎年福島県南相馬市の原野で繰り広げられる。
この祭りの起源は、東北の一角を何世紀にもわたって治めた相馬氏の軍事訓練にさかのぼる。もともとは戦に備えて武者と馬を鍛えるのが目的だったが、やがて地域の神社に奉納する神事へと発展した。とはいえ、騎馬突撃の荒々しいエネルギーは今も健在だ。雲雀ヶ原祭場地のそばに立ち、何百頭もの馬が轟音とともに駆け抜けるとき足元が震えるのを感じれば、なぜこの祭りが千年も続いてきたのか、自ずと理解できるだろう。
三日間のプログラム
初日 ― 出陣式(5月23日)
相馬太田神社・相馬中村神社・相馬小高神社の三社でそれぞれ出陣の儀式が執り行われる。甲冑姿の騎馬武者たちが祝福を受け、祭場地へ向けて行列を組む。コンビニや信号機のある現代の町並みを甲冑武者が行進する光景は、現実と時代劇が交差するような不思議な感動を覚える。
二日目 ― 本祭(5月24日)
見逃せないメインの一日。雲雀ヶ原での主な行事は以下の通り。
- 甲冑競馬: 甲冑を着けた10騎が約1,000mのコースを全力で駆け抜ける。兜が飛び、砂煙が舞い、観客が沸く。黒澤映画のワンシーンを生で見ているようだ。
- 神旗争奪戦: 花火で打ち上げられた「神旗」を、何百騎もの武者が馬上で奪い合う。馬がぶつかり、武者が鞍から身を乗り出す大混戦。旗をつかむことは神の加護とされる。
スタンドは熱気に包まれ、地元の家族連れがレジャーシートを広げ、望遠レンズを構えたカメラマンが柵沿いに並ぶ。屋台からは焼きたての匂いが漂い、古の戦場は活気ある祝祭空間と化す。
三日目 ― 野馬懸(5月25日)
最終日は小高神社で行われる「野馬懸」。神聖な柵の中に放たれた馬を素手で捕える行事だ。軍馬訓練という祭りの原点に最も近く、荒々しくも感動的。騎手と馬の絆が生々しく伝わってくる。
実用情報
アクセス:
- 東京から: 東北新幹線で仙台へ(約1.5時間)、JR常磐線に乗り換え原ノ町駅へ(約1.5時間)。祭場地まではタクシーまたはシャトルバスで数分。
- 仙台から: JR常磐線で原ノ町駅へ(約1.5時間)。
タイミング:
- 二日目のメインイベントはおおむね9:30〜15:00
- 良い場所を確保するなら8:00前に到着を
- 指定席(約2,000〜4,000円)は事前購入を強くおすすめ
ヒント:
- 5月の祭場地は遮るものがほとんどない平地。日焼け対策は必須
- 望遠レンズか双眼鏡があると体験が格段に向上する
- 南相馬市周辺の宿泊施設は限られているため、早めの予約を。仙台に泊まって日帰りする手もある
- 屋台は出るが、水と軽食は持参が安心
祭りの先へ
南相馬と周辺の相馬地域は、2011年以降、驚くべき回復力で復興を遂げてきた。相馬野馬追を観ることは、壮大な祭りを体験するだけでなく、文化遺産の継承に心血を注ぐ地域を応援することでもある。海岸線には新しい公園やメモリアルが整備され、松川浦の貝類をはじめ地元の海産物は絶品だ。
もう一日余裕があれば、海沿いを北上して相馬港の朝市へ。活気あふれる魚市場で食べるしらす丼は、日本のどこよりも新鮮だと言っても過言ではない。
相馬野馬追は、日本観をアップデートしてくれる祭りだ。静かな庭園やお茶の世界から離れ、全速力で駆ける日本を体感してほしい。
Image: Soma Nomaoi 2017, CC BY 2.0, by Hajime Nakano, via Wikimedia Commons