日本の中部山岳地帯に、時間が折り重なるような谷がある。白川郷の農家は何世紀にもわたって立ち続け、飛騨高地の豪雪に耐えるために急勾配の茅葺き屋根が作られた。9月になると、周囲の田んぼが黄金色に染まり始め、取り囲む山々は数週間後に訪れる燃えるような紅葉の気配を漂わせる。ここは日本アルプスが最も心地よい季節を迎える場所——ハイキングするには十分暖かく、露天風呂に浸かっても暑すぎず、川の音が聞こえるほど静かだ。
このガイドでは、岐阜県と長野県の飛騨地方を4〜5日かけて巡るルートを紹介する。白川郷、高山、奥飛騨温泉、上高地をひとつの旅に結び、ユネスコ世界遺産の集落から山の秘湯、そしてアルプスの大自然へと導く。
白川郷:合掌造りの里を歩く
白川郷の主な集落・荻町には約60棟の合掌造り家屋がある。「合掌」とは祈る手のかたちを意味し、茅葺き屋根の60度という急勾配を表す。いくつかの家屋は内部を公開している。最大の和田家は江戸時代に遡り、上階には養蚕の道具が展示されている。神田家はメインの道から少し外れた場所にあり、訪問者が少ない分、軋む床板や囲炉裏の煤けた跡がより親密に感じられる。
定番のパノラマビューは荻町城跡展望台から。集落中心部から徒歩15分(またはシャトルバスで数分)の高台にある。9月の眼下には、緑から黄金色へと変わりゆく田んぼの中に黒い木造の農家が点在する景色が広がる。観光バスの混雑を避けるなら午前9時前か午後4時以降がおすすめだ。
より静かな体験を求めるなら、吊り橋を渡って庄川東岸へ。白川郷合掌造り民家園(みんかえん)では、移築された25棟の合掌造り建物が木々に囲まれた丘に保存されている。閉園は午後5時だが、夕方の光の中を散策する周辺の小道は格別だ。
アクセス情報:白川郷に鉄道駅はない。高山からの濃飛バスで約50分(9月は予約推奨)。金沢からも同社の直通バスがあり、約75分。
高山:江戸の町並みと朝市
白川郷からバスで南へ約1時間、高山は小さな街ながらその魅力は計り知れない。三町筋(さんまちすじ)——格子窓の商家が並ぶ3本の通り——は見事に保存されており、侍を除けば本当に江戸時代にタイムスリップしたかのようだ。造り酒屋は軒先に新しい杉玉を吊るし、それが茶色くなれば新酒の合図。
毎日正午まで開かれる朝市がふたつある。陣屋前朝市は旧代官所の前に開かれ、地元農家が野菜、漬物、味噌を並べる伝統的なもの。宮川朝市は宮川の東岸に沿って続き、工芸品や軽食、この地方自慢の飛騨牛串焼きなど品揃えが豊富だ。
有名な春と秋の高山祭で使われる祭屋台は、桜山八幡宮の隣にある高山祭屋台会館(やたいかいかん)で年間を通じて展示されている。秋の高山祭は10月9〜10日だが、9月でも屋台に載せられた精巧なからくり人形は間近で見る価値がある。
建築好きには吉島家住宅がたまらない。明治期の建築の傑作で、釘を一本も使わず、そびえ立つ内部の格子天井に自然光が差し込む様は、まるで木の大聖堂のようだ。
奥飛騨温泉:アルプスの麓に広がる5つの温泉郷
高山から東へ、北アルプスに向かって道を上ると、5つの温泉地からなる奥飛騨温泉郷にたどり着く。平湯、福地、新平湯、栃尾、新穂高の5つの温泉地で、露天風呂の数は日本一とも言われる。
平湯温泉はアクセスが最も良く、高山からバスで約60分。硫黄泉で乳白色の湯、温度は約42度。公共浴場「ひらゆの森」には岩と木々に囲まれた大きな露天風呂があり、9月には頭上の葉が色づき始める。
山奥の新穂高温泉は、二段式ゴンドラ「新穂高ロープウェイ」の拠点。標高2,156mの山頂駅展望台からは北アルプスの360度パノラマが楽しめ、西穂高岳(3,190m)や笠ヶ岳(2,898m)などの峰々が一望できる。晴れた9月の朝には日本海まで見渡せることも。
奥飛騨エリアの多くの旅館では、天然温泉かけ流しの客室露天風呂を備えている。9月の料金は紅葉ピークや冬シーズンより安く、山の空気にはすでに爽やかな秋の気配が漂い、長い夜の入浴が格別に心地よい。
上高地:アルプスの懐へ
平湯温泉からバスで約25分、長いトンネルを抜けると上高地に着く。マイカー規制があり、入る手段はバスかタクシーのみ。この方針のおかげで谷は驚くほど手つかずの自然を保っている。
河童橋——梓川に架かる木造の吊り橋——が象徴的な入口だ。ここから川沿いの遊歩道を上流に進むと、明神池まで片道約60分。波ひとつない水面に明神岳の鋭い峰々が映り込み、池に浮かぶ森の小島の上には小さな社が鎮座する。
より長い散策を望むなら、河童橋から下流の大正池へ(約70分)。白樺やカラマツの原生林を抜ける道だ。大正池は1915年に焼岳の噴火で梓川がせき止められてできた池で、水面から立ち枯れの木が立ち上がり、背景に穂高連峰が連なる。日本アルプスで最も多く写真に収められる景色のひとつだ。
9月の上高地の気温は日中12〜18度、夜間は5〜8度。レイヤードの服装が必須。9月下旬にはカラマツが金色に色づき始め、ナナカマドの赤が高い稜線に映える。
上高地の開山期間は4月中旬〜11月中旬。谷内の宿泊施設は限られている。定番は上高地帝国ホテルだが、西糸屋山荘や五千尺ホテルもより手頃な料金で利用できる。9月の週末は早めの予約を。
ルートプランニング
1日目——高山到着。 三町筋を散策、酒蔵を見学、午後はクラフトショップへ。高山泊。
2日目——高山から白川郷日帰り。 朝のバスで白川郷へ、集落を歩き、地元の蕎麦屋で昼食、午後は民家園。夕方高山に戻る。
3日目——高山から奥飛騨温泉へ。 朝市を楽しんでからバスで平湯または新穂高へ。午後はロープウェイ(天候次第)。露天風呂付きの旅館泊。
4日目——奥飛騨から上高地へ。 早朝バスで上高地入り。河童橋から明神池の往復ハイキング。元気があれば徳沢まで足を延ばすのも。上高地泊または平湯に戻る。
5日目——帰路。 沢渡経由のバスで松本へ、特急あずさで東京(約2時間40分)。名古屋経由の新幹線も利用可能。
アクセス
東京から: JR中央線特急あずさで松本まで2時間40分、そこからアルピコバスで高山方面(上高地・平湯経由)。または新宿バスターミナルから高速バスで高山まで約5時間30分(片道約3,200円〜)。
大阪・京都から: 名古屋経由JR高山本線で高山まで合計約4時間。高山本線は飛騨川沿いの車窓が美しく、特に下呂より北が見どころ。
金沢から: 濃飛バス直通で白川郷まで75分、高山まで約2時間。
9月の旅のヒント
- 合掌造りの農家民宿に泊まりたいなら早めに予約を。「孫右ヱ門」「幸ヱ門」が代表的。
- 秋の高山祭(10月9〜10日)はすぐそこ。日程に余裕があれば延泊して見る価値あり。
- 上高地の天候は急変しやすい。晴れた朝でも雨具を携行すること。
- 奥飛騨エリアは川魚が絶品。イワナやヤマメの炭火焼きは地域の名物。
- 上高地や奥飛騨の一部では携帯の電波が不安定。オフラインマップを事前にダウンロードしておこう。
Image: 岐阜県白川村荻町集落、2016年9月撮影, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons