東大寺二月堂といえば、3月の「お水取り」(修二会)で知られる国宝の仏堂。しかし毎年9月17日の夜、この堂が一年でもっとも柔らかな表情を見せることは、地元の人以外にはあまり知られていません。この日は二月堂の本尊・十一面観音の縁日「十七夜」。夕暮れとともに参道の石灯籠と舞台の釣灯籠に灯がともり、堂下の広場では「十七夜盆踊り」が開かれます。
奈良の「踊り納め」
盆踊りといえば8月中旬まで、というのが日本の常識。ところが奈良では、この二月堂の十七夜盆踊りが一年の締めくくり、いわゆる「踊り納め」として親しまれています。お盆からひと月遅れ、暑さの峠を越えた初秋の夜に、やぐらを囲んで音頭が流れ、浴衣姿の輪がゆっくりと回る——8月の祭りにはない、しっとりとした風情があります。
参加は自由で無料。曲は繰り返しが多いので、輪の外から数回眺めれば振りは自然と覚えられます。例年、灯明は18時ごろから、盆踊りは18時30分〜21時ごろまで。広場には露店も並びます(時間は年により多少前後するため、当日は余裕をもってお出かけを)。
夕方からの黄金コース
おすすめは午後の早めに奈良入りし、日暮れに向かって過ごすプラン。
まずは東大寺の大仏殿へ(9月の入堂は例年17時30分まで)。奈良時代に鋳造された高さ約15メートルの盧舎那仏、そして南大門の運慶・快慶一門による金剛力士像は、何度見ても圧倒されます。
大仏殿から石畳の坂道を10分ほど上れば二月堂。日没の1時間前に着くのが通の楽しみ方です。二月堂の舞台は終日無料で開放されており、西向きのため奈良盆地に沈む夕日を一望できる、市内随一の夕景スポット。大仏殿の大屋根の向こうに日が落ちるのを見届けてから広場へ下りれば、ちょうど灯籠に火が入る時刻です。
一帯は約1,200頭の鹿が暮らす奈良公園。夕暮れの鹿は昼間より落ち着いていて絵になりますが、鹿せんべいの売店は夕方には店じまいするので、鹿とのふれあいは明るいうちに。9月の雄鹿は角が立派に伸びる季節、少し距離をとって眺めるのが安全です。
踊りのあと、まだ歩けるなら猿沢池の南に広がるならまちへ。江戸期の町家を改装した居酒屋や酒場が点在します。奈良は清酒発祥の地——地元の純米酒で一日を締めるのがふさわしい夜です。別の日に訪れるなら、公園入口近くの奈良国立博物館で仏教美術の名品をじっくり見るのも良い組み合わせです。
アクセスと実用情報
最寄りは近鉄奈良駅。東大寺まで徒歩約20分、または市内循環バスで「東大寺大仏殿」下車。京都からは近鉄特急で約35分、大阪難波からは約40分。JR奈良駅からは徒歩+10分ほど、バス利用も便利です。
盆踊りは21時ごろまでに終わるので、京都・大阪への日帰りは余裕。終電はずっと遅くまであります。ただ、ならまちのゲストハウスに一泊すれば、観光客のいない早朝の奈良公園という最高のご褒美が待っています。
持ち物は、露店用の現金、虫よけ(9月の公園はまだ蚊がいます)、歩きやすい靴。二月堂への坂道は照明が少ない区間があるので、スマホのライトがあると安心です。小雨なら踊りは決行されることが多いですが、荒天時は縮小されることも。
9月17日の夕暮れ、二月堂の舞台で灯籠の明かりを背に、眼下に灯りはじめる古都と太鼓の音——予約も入場料も要らないのに、奈良でいちばん贅沢な夜かもしれません。
Image: Todai-ji Nigatsu-do, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons