毎年春になると、何百万人もの旅行者が九州から本州を北上しながら桜を追いかけます。4月下旬には東京の花びらはとうに散り、京都の寺院は新緑に包まれ、ほとんどの人が桜のシーズンは終わったと思っています。でも、それは間違いです。北海道南部では、桜前線がまさに到達したばかり。しかも、本州では決して味わえない特別な体験が待っています——250品種の桜が咲く城下町、ピンクに染まる星形の洋式要塞、そして世界屈指の海鮮グルメです。
松前:花に彩られた日本最北の城
松前は日本史において独特な位置を占めています。江戸時代の最北の藩であり、北海道に建てられた唯一の日本式城郭がありました。松前藩は何世紀にもわたりアイヌとの交易を管理し、その城は1960年に再建されたものの、津軽海峡を見渡し、晴れた日には青森の山々が望める場所に今も建っています。
しかし、現在旅行者を惹きつけるのは桜です。城を囲む松前公園には、250品種以上・1万本を超える桜の木があります。これは北海道で最も多いだけでなく、日本全国でも屈指の桜コレクションです。
多品種であることの魅力は、開花時期がずれること。通常の桜スポットは一週間だけの盛りですが、松前の桜は4月下旬から5月中旬にかけて次々と咲き続けます。早咲きのソメイヨシノに続いて八重桜、そして松前早咲きなどの地域固有種、最後に深いピンクの関山へ。第78回松前さくらまつり(2026年4月18日〜5月10日)の期間中、いつ訪れても何かしらの桜が見頃を迎えています。
松前公園の見どころ
- 松前城(福山城): 復元された三層の天守閣には、松前藩の歴史、アイヌとの交易、戊辰戦争での役割を紹介する博物館があります。入場料360円。
- 桜のトンネル: 桜の木がアーチ状に覆う約250メートルの遊歩道。北海道の春を代表する撮影スポットです。
- 松前藩屋敷: 商家や鍛冶屋など、江戸時代の城下町を再現した施設。当時の暮らしが生き生きと伝わってきます。
- 寺町: 城の下の斜面に15の寺院が並び、それぞれに桜や石庭があります。賑やかな祭り会場とは対照的な静かな散策路です。
- 夜間ライトアップ: まつり期間中、城壁沿いの桜がライトアップされ、古い堀に美しい映り込みを作り出します。
まつりの楽しみ方
松前さくらまつりでは、北海道の海鮮を中心とした屋台が並びます。焼きホタテ、ウニ、イカのほか、たこ焼きや焼き鳥、そして松前の名物「松前漬け」(イカ・昆布・数の子の漬物)も。週末には城をバックに太鼓の演奏や伝統舞踊のステージが行われます。
函館:コスモポリタンな港町
松前から車で約2時間北東に進むと、日本で最も魅力的な都市のひとつ、函館があります。1859年に日本で最初に開港した港のひとつとして、西洋・ロシア・中国の影響を受けた建築、料理、雰囲気が今も息づいています。4月下旬から5月にかけては、北海道屈指の桜の名所にもなります。
五稜郭:花に囲まれた星形要塞
五稜郭は日本初の西洋式星形要塞で、1864年に築造され、1869年の戊辰戦争最後の戦いの舞台として知られています。現在、堀と城壁沿いに約1,600本のソメイヨシノが植えられています。
その美しさを最も堪能できるのは上空から。五稜郭タワー(107メートル)からは星形の全容を一望でき、満開時には堀に浮かぶピンクの星のような絶景が広がります。日本全国でも屈指の桜の眺望です。
城内では堀沿いの桜並木を散策し、復元された函館奉行所を見学し、中央の芝生広場でピクニックを楽しめます。有名な桜スポットにしては、混雑が比較的穏やかなのも嬉しいポイントです。
元町:坂の上の西洋遺産
函館山の斜面に広がる元町エリアは、明治・大正時代の建築の生きた博物館です。玉ねぎ型ドームのロシア正教会、英国領事館、中華会館が並ぶ坂道からは港が一望できます。
- 函館ハリストス正教会: 1860年にロシア宣教師によって建てられた緑のドームが美しい教会。日本で最も美しい教会のひとつ。
- 旧函館区公会堂: 1910年築の青と黄色のコロニアル建築。バルコニーから港を見渡せます。
- 八幡坂: 元町で最も有名な坂。丘の上から港に向かって真っすぐ伸びる眺望は、映画やドラマのロケ地として愛されています。
函館山の夕暮れ
函館を訪れたら、函館山(334m)からの夜景は外せません。香港・ナポリと並ぶ世界三大夜景のひとつに数えられ、二つの暗い湾に挟まれた細い地峡が宝石のように輝く姿は圧巻です。ロープウェイは通年運行で、涼しく澄んだ4月下旬の空気は最高のコンディションです。
函館朝市
函館朝市は終戦後から続く市場で、約250の店舗が早朝5時から営業しています。
- いくら丼: つやつやのイクラをご飯にたっぷり乗せた函館の名物朝食。
- 活イカ刺身(イカそうめん): 水槽から自分でイカを釣り上げ、その場でさばいてもらいます。透き通った身がまだ動いている鮮度。
- ウニ: 北海道のウニは日本のゴールドスタンダード。生のまま丼で、あるいはトッピングで。
- カニ: 毛ガニ、タラバガニ、ズワイガニが新鮮な状態で、全国配送も可能です。
朝市はJR函館駅から徒歩2分です。
おすすめ3日間モデルコース
1日目——函館到着&元町散策 北海道新幹線で新函館北斗駅着(はこだてライナーで20分で函館駅へ)。チェックイン後、元町の西洋建築巡り。八幡坂、ハリストス正教会を見学し、ベイエリアでランチ。夕方はロープウェイで函館山へ。夜景を堪能した後、函館塩ラーメンの名店「あじさい」か、港のレストランで夕食を。
2日目——五稜郭&函館市内 朝:函館朝市でいくら丼とウニの朝食。午前中:五稜郭タワーで空中からの眺めを楽しみ、堀沿いの桜並木を散策、奉行所を見学。午後:金森赤レンガ倉庫群でショッピングとクラフトビール。夜:十字街の繁華街散策、または明治時代から営業する谷地頭温泉へ。
3日目——松前日帰りトリップ レンタカーまたはバス(片道約2時間)で松前へ。午前中に城と博物館、桜のトンネルと寺町を散策、まつりの屋台で海鮮ランチ、藩屋敷見学。車なら帰路に白神岬に立ち寄り、迫力ある海岸の断崖と津軽海峡の眺望を楽しめます。
実用情報
アクセス
- 東京から: 北海道新幹線で新函館北斗駅まで約4時間。JRはこだてライナー(20分)で函館駅へ。
- 飛行機: 東京羽田(1時間20分)、大阪関空(1時間50分)、名古屋中部(1時間40分)から函館空港へ。空港バスで函館駅まで20分。
- 函館から松前へ: 車で国道228号を海岸沿いに約2時間。木古内経由のバスもありますが本数が少ないため、レンタカーを強くおすすめします。
桜の見頃
- 松前:4月下旬〜5月中旬(品種により異なる。5月上旬が最も華やか)
- 五稜郭:例年4月下旬〜5月上旬
- 年によりずれるため、直前に現地の開花予報をチェックしてください
節約ヒント
- 北海道新幹線はジャパンレールパスまたはJR東日本・南北海道レールパス(6日間・27,430円)でカバーできます。
- 函館市電は1回210〜260円。1日乗車券600円がお得。
- 松前公園は入園無料。城の博物館のみ入場料360円。
- 函館朝市の朝食は海鮮丼で1,000〜2,500円程度。
宿泊
- 函館: JR函館駅周辺とベイエリアが最も便利。市電で30分東の湯の川温泉には、海が見える旅館が揃っています。
- 松前: 宿泊施設は限られるため、函館からの日帰りがおすすめです。
なぜ今行くべきか?
4月下旬から5月上旬の北海道南部は、満開の桜を混雑なしで楽しめる稀有な場所です。ゴールデンウィーク(4月29日〜5月6日)に有名スポットに人が集中する中、松前は日本人旅行者の間でさえまだ隠れた存在。日本最北の城、250品種の桜、世界三大夜景の函館山、そして最高鮮度の海鮮——この組み合わせは、日本で最も満足度の高い春の旅のひとつです。
桜前線は本州で終わりではありません。北へ追いかけましょう。