夏の山陰から観光客が引いたころ、松江の城下町は静かに、けれど大胆なことをします。街灯を落とし、代わりに手作りの和紙あんどんを約1000個ともすのです。**松江水燈路(まつえすいとうろ)**は、10月の旅程にこの小さな島根の町を入れるべき最大の理由でありながら、海外ではほとんど知られていません。
何が行われるのか
水燈路はパレードでも花火大会でもありません。ゆっくり歩いて味わう、まちなかのインスタレーションです。ボランティア、地元の子どもたち、作家が何か月もかけて和紙を描き、木のあんどん枠に仕立てて、三つの区間に並べます。松江城の堀端の園路、城山稲荷神社へ続く石段の参道、そして北堀沿いの武家屋敷通り・塩見縄手です。門前や水際には高さ2メートル近い大型の創作あんどんが立ち、堀の水面が明かりを倍にします。
開催は10月前半の週末の夕方が中心で、おおむね17時ごろから21時ごろまで、日暮れとともに点灯します。日程は年によって動き、祝日に追加開催されることもあるので、夜を決め打ちする前に松江城のページで最新の情報を確認してください。あんどんの道を歩くこと自体は無料です。
主役はやはり城
松江城は看板に偽りがありません。全国に12しか残らない現存天守のひとつで、戦後のコンクリート復元ではなく本物です。1611年、堀尾吉晴のもとで完成し、2015年に国宝に指定されました。破風が翼のように張り出す姿から、地元では千鳥城と呼ばれます。内部は素の木肌がむき出しで薄暗く、急な階段が積み重なり、籠城に備えた天守内の井戸という珍しい遺構も残ります。
天守は通常、夕方には閉まりますが、水燈路の期間は開館を延長することが多く、最上階から明かりに縁取られた堀と町並みを見下ろせます。天守の観覧料は別途(大人およそ700円、パスポートを提示した外国人観光客は割引)。夜間延長は会期中の全日程で保証されているわけではないので、当日の時間は現地で確認してください。
暗くなってからの堀めぐり
体験のもう半分は水の上にあります。堀川遊覧船は、屋根つきの平底舟で内堀と外堀をおよそ50分かけて一周し、水燈路の期間は夜の便が加わります。堀は江戸期のかたちをほぼそのまま残しており、舟は17の橋をくぐります。そのうちいくつかは橋げたが極端に低く、船頭が屋根を下げ、乗客全員が体を折りたたんでやり過ごします。寒い時期には座席の下にこたつが入ります。
石垣から1メートルほどの水面の高さであんどんを見上げる光景は、道を歩いて眺めるのとはまったく別の絵になります。できれば両方を。先に舟、それから歩いて戻るのがおすすめです。
塩見縄手と小泉八雲
北堀沿いの塩見縄手は、市内でもっとも美しい通りであり、あんどんの道でもっとも風情のある区間です。松並木と土塀が続き、江戸中期の武家屋敷が保存され、そして**小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)**の旧居があります。1890年に松江へ来て、松江藩士の家に婿入りし、外の世界が思い描く「日本」の像をつくった怪談を書いた人です。旧居と隣接する記念館は堀に面して建っています。あんどんの明かりの下で、彼が書いた松江の朝の音の描写を読む——旅の記憶はそういうところに残ります。
これらの施設はたいてい夕方に閉まるので、まず昼のうちに見て、食事をして、夜にもう一度戻ってくる順番が正解です。
1泊2日のモデルプラン
1日目 午後。 松江駅に着いたら荷物を置き、レイクラインの周遊バスで約10分、城へ。天守、塩見縄手、八雲記念館を明るいうちに回ります。京店か駅周辺で早めの夕食を。
1日目 夜。 水燈路。日暮れの点灯を待ち、夜の遊覧船に乗り、堀を一周して歩きます。上着を1枚。10月の水辺の夜は、日中の予報よりずっと冷えます。
2日目。 宍道湖。市街の西に広がるこの湖は、日本有数と言われる夕景を生みます。真ん中に松を載せた嫁ヶ島のシルエットが浮かびます。島根県立美術館の下の湖畔の遊歩道が定番の場所で、しかも無料です。晴れの予報なら、帰りの列車は日没の後に。
もう1日あるなら、出雲大社は列車で西へ1時間。日本最古級の神社であり、この地方が旧暦10月を「神無月」ではなく「神在月」と呼ぶ理由でもあります。あるいは逆方向へ、玉造温泉。列車15分+バス少々、8世紀の『出雲国風土記』に記され、以来ずっと美肌の湯として語られてきた温泉です。
松江で食べるもの
宍道湖は汽水湖です。そのおかげで松江には「宍道湖七珍」という独特の食材があります。スズキ、シラウオ、コイ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ(ワカサギ)、シジミ。シジミの味噌汁はその日常版で、市内のほとんどの朝食に出てきます。昼は割子そば。出雲そばを丸い漆の器に三段重ねで冷たく供するもので、殻ごと挽くため色が黒く、香りが強いのが特徴です。茶の湯に傾倒した藩主のおかげで、松江は日本三大和菓子処のひとつにも数えられます。午後の甘いもののために、胃を空けておいてください。
行き方
松江に新幹線は通っていません。だからこそ静かなままなのですが。東京からの最速は出雲空港への空路(約1時間25分)+空港連絡バス35分。鉄道なら山陽新幹線で岡山、特急「やくも」に乗り換えて山を越え約2時間30分。大阪・東京からは夜行高速バスもあります。市内に入ってしまえば、この記事に出てくる場所はすべて、駅からレイクラインか貸自転車の範囲です。
あんどんを見に行って、夕日のために留まる。そういう町です。
Image: Matsue Castle, License, via Wikimedia Commons