毎年8月、高知市の街路は色と律動の万華鏡へと変わる。全国から約18,000人の踊り子が集結する「よさこい祭り」——日本最大級の踊りの祭典が、今年で第73回を迎える。自由奔放なこの祭りにたったひとつの鉄則がある。踊り子は全員、鳴子(なるこ)を手に踊らなければならない。
戦後復興から全国的ムーブメントへ
よさこい祭りは1954年(昭和29年)、戦後復興に苦しんでいた高知の商店街関係者たちの発案で生まれた。もともと田んぼの鳥よけに使われていた鳴子を踊りの楽器に転用するという大胆なアイデアで、初回はわずか21チーム・750人の参加だった。70年以上が経った現在、約200チーム・18,000人の踊り子が街を埋め尽くし、よさこいの精神は日本全国、さらには海外にまで広がっている。
高知よさこいの最大の魅力は、その創作の自由度にある。伝統舞踊からヒップホップ、サンバ、ロックまで、どんなスタイルでもOK——ただし原曲「よさこい鳴子踊り」のフレーズを楽曲に組み込み、鳴子を使うことが条件だ。この「伝統と革新の融合」が、数百人が一糸乱れぬ隊列で踊る圧巻のパフォーマンスから、最新のポップトレンドを取り入れた即興的なチームまで、驚くほど多彩な演舞を生み出している。
4日間の踊り漬け
祭りは例年8月上旬〜中旬の4日間にわたって開催される。
- 1日目(前夜祭): 高知市中央公園でのオープニングナイト。ライトアップの中で各チームが演舞を披露する。本番前のウォームアップ的な雰囲気ながら、期待感が高まる一夜。
- 2〜3日目(本祭): メインイベント。高知市内に設けられた約16カ所の演舞場を各チームが巡回し、約5分間のパフォーマンスで審査員と観客を魅了する。最大の演舞場は追手筋本部競演場。路面電車沿いの大通りに桟敷席が並び、次から次へとチームが流れてくる様は圧巻だ。帯屋町アーケード演舞場はアーケードの屋根の下で、猛暑を避けながら観覧できる穴場。
- 4日目(後夜祭・全国大会): 受賞チームの表彰と再演舞。競い合った疲労と歓喜が交差する、祭りのフィナーレ。
観覧のポイント
16カ所の演舞場のほとんどは無料で観覧可能。沿道で場所を確保すればいい。追手筋の桟敷席は有料で、公式サイトから事前購入できる。人気の場所は早い時間から埋まるので、余裕を持って到着しよう。8月の高知は連日35℃超え、湿度も容赦ない。水分・扇子・日焼け止めは必須アイテムだ。
祭り以外の高知の魅力
高知城は全国に12しか残っていない現存天守のひとつ。丘の上の天守閣からは市街地と周囲の山々が一望できる。城下では日曜市(にちよういち)——日本最古の路上市場——が追手筋に1km以上も連なるが、祭り期間中はお休みになる。
食事ならひろめ市場へ。城の近くにある屋内型のフードコートで、カツオのたたき(高知を代表する藁焼き鰹)、鯨肉、ゆず風味のあれこれ、地ビールなどの屋台がひしめく。相席スタイルの共用テーブルで、見知らぬ人と肩を並べて食べるのも旅の醍醐味だ。
バスで約30分南へ行けば桂浜。松林を背景にした三日月形の海岸で、坂本龍馬像が立つことでも知られる。市街東側の五台山は展望台と牧野植物園があり、少し足を延ばす価値がある。
高知の食文化
高知の食は豪快で飾らない。伝説的なカツオのたたき——分厚い鰹を藁で炙り、にんにく・生姜・みょうがを添えて食す——のほかにも見逃せない味が揃う。
- 田舎寿司 — 椎茸やみょうが、こんにゃくをのせた色鮮やかな郷土寿司
- 皿鉢料理(さわちりょうり) — 大皿に刺身・寿司・惣菜を豪快に盛りつけた宴会料理
- チキン南蛮 — 唐揚げにタルタルソースをかけた四国のソウルフード
- ゆず尽くし — ポン酢、アイス、ドリンク、ラーメンまで、あらゆるものにゆずが登場
地酒や地ビールと合わせるのが高知流。高知県は一人当たりの飲酒量が日本トップクラスとも言われ、地元の人々のおもてなし(と酒の強さ)は伝説的だ。
アクセス
- 飛行機: 高知龍馬空港から東京羽田(約80分)、大阪伊丹(約50分)、名古屋(約60分)の直行便あり。空港バスで市内中心部まで約30分。
- 電車: JR特急「南風」で岡山から約2時間半。大歩危峡の車窓風景が見事。JRパス利用可。
- 高速バス: 大阪から約5.5時間、東京から約11時間(夜行便)。
市内はとさでん交通の路面電車とバスが主要スポットを網羅。祭り期間中は多くの通りが歩行者天国になるため、演舞場間の移動は徒歩が最も効率的だ。
来場のコツ
- 宿は数カ月前から満室になるため、早めの予約が鉄則。須崎やいの町に泊まって電車で通うのも手。
- 鳴子のカチカチ音と大音量の音楽は近距離だと凄まじい。音に敏感な方はイヤープラグを持参しよう。
- 「飛び入り参加」のチームに加われば、経験ゼロでも踊れる。旅の思い出に最高だ。
- 高知の夜は蒸し暑い。通気性の良い軽装が必須。
18,000人の踊り子が鳴子を鳴らしながら街を埋め尽くし、沿道の歓声と一体になるとき、観る者と踊る者の境界は消える。高知よさこいは、ただ見るだけでは終わらない——あなたを巻き込む祭りだ。
Image: Yosakoi Performers at Kochi Yosakoi Matsuri 2008, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons