毎年5月の最終週末、長野県松本市のあがたの森公園の木陰の芝生が250を超えるクラフトブース、数千人の来場者、そして手仕事への静かな感動で満たされる。クラフトフェアまつもと——2026年は5月30・31日開催——は日本で最も歴史と信頼のある野外クラフトマーケットの一つで、本格的なコレクターからふらりと立ち寄る散策客まで、全国から人が集まる。
1985年に地元の陶芸家たちの小さな集まりとして始まったフェアは、審査制による日本有数の独立系作家のショーケースへと成長した。毎年、選考委員会が数百件の応募から約260ブースを選出。結果は、洗練されていながら気取りのないマーケット——陶芸家の隣に革職人、ガラス作家と織り手が同じ並びに、木工職人が目の前でスプーンを彫る。量産品は一つもない。すべてテーブルの向こうに立つ本人が作ったものだ。
出会えるもの
クラフトのジャンルは驚くほど多彩。陶磁器が主力で、侘び寂びの茶碗からモダンなディナープレートまで。長野の山の伝統は曲げわっぱ、漆器、手打ちの包丁に現れる。吹きガラス、藍染テキスタイル、手漉き和紙、リサイクル金属のジュエリー、手縫いの革鞄、木彫りの玩具も並ぶ。
このフェアが特別なのは「会話」があること。百貨店と違い、ここでは作り手から直接買う。多くの作家が素材のこと、技法のこと、何年もの修練を喜んで語ってくれる。ある土の特性や染色技法について20分も話し込んでから、カップを一つ持ち帰るかどうか決める——そんな贅沢な時間が当たり前にある。
価格帯は幅広い。手びねりの箸置きセットが800円、実力派作家の大皿が15,000円以上ということも。現金持参推奨——カード不可のブースが多い。
会場の魅力
あがたの森公園は松本城から徒歩5分南。松本城は日本に現存する5つの天守の一つで国宝に指定されている。公園はケヤキと桜の大木に覆われ、晴れた日には西に北アルプス(穂高・常念・燕)の残雪の峰々がドラマチックな背景を描く。雰囲気はゆったりとして急がない——家族連れがレジャーシートを広げ、子どもが芝生で遊び、フードブースからコーヒーの香りが漂う。
松本城はフェアの前後にぜひ。黒と白のコントラストが美しい外観は「烏城」の異名を持ち、1590年代築の六層の天守からは街と山々の大パノラマが広がる。入場料700円。
松本で過ごす週末
クラフトフェアが目玉だが、松本は一泊以上の価値がある街だ。
中町通りは白壁のなまこ壁蔵が並ぶ美しい商家街で、カフェ、ギャラリー、クラフトショップに改装されている。城から東へ徒歩10分、フェア後の散策に最適。
まつもと市民芸術館(伊東豊雄設計)は建築好きなら見逃せない。有機的な曲線のファサードは、デザインを大切にする松本の街にふさわしいランドマーク。
日帰り: 北アルプスの核心部・上高地は松本バスターミナルからバスで約90分(4〜11月の季節運行)。河童橋、エメラルドの梓川、そびえる穂高連峰——日本屈指の山岳リゾート。もう一日あるなら、中山道の宿場町・奈良井宿がJR中央線で南へ約40分。
温泉: 松本は天然温泉に恵まれている。バスで東へ20分の浅間温泉は1,300年以上の歴史を持ち、日帰り入浴も旅館宿泊も可能。
食とドリンク
松本の名物は「山賊焼き」——鶏もも肉の巨大な一枚をにんにく醤油に漬け込み、衣をつけてカリッと揚げたもの。市内中心部に複数の店があり、地元のクラフトビールとの相性は抜群。
信州そばも外せない。地元産のそば粉で打ち、冷たいつけ汁で食べるざるそば、温かいかけそば、さらにきのこ出汁の鍋でしゃぶしゃぶする「とうじそば」も松本ならでは。
コーヒーも侮れない。松本にはスペシャルティコーヒーの小さな焙煎所が点在——中町通りやあがたの森公園周辺で探してみてほしい。
アクセス
東京から: JR中央線特急「あずさ」で新宿駅から松本駅まで約2時間30分(片道約6,600円、JRパス利用可)。概ね1時間に1本運行。
名古屋から: JR特急「しなの」で約2時間(約5,500円)。
会場まで: あがたの森公園は松本駅から徒歩15分、松本城からは徒歩5分。
ポイント
- 早めの到着を。 開場は両日とも9時。午前中のうちに人気ブースは行列になる。
- 現金持参。 カード不可のブースが多い。
- トートバッグ持参。 両手を空けてブラウジングし、陶器は壊れやすいので多くの作家が提供してくれるタオルで包むこと。
- 天候: 5月下旬の松本は概ね快適(18〜25℃)だが山の天気は変わりやすい。薄手の上着と日焼け止めがあると安心。
クラフトフェアまつもとは単なる買い物イベントではない。手で何かを作るという行為が忘れかけられた時代に、その価値を静かに祝う場だ。山に囲まれ、老木の木陰で、430年の天守に見守られながら——丁寧に作られたものの美しさに立ち止まるのに、これ以上の場所は日本にない。